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父親が娘を送りだすとき、一遍の詩

Chenxi 結婚式の一連の投稿が終わりました。
幕を閉じる前に、どうしてもご紹介しておきたい一つの詩を投稿したいと思います。

去年の5月に、三男が結婚した時にはハイネの詩を二人に贈りました。
あの時期、手持ちの詩集をめくっていくなか、私を泣かせた一つの詩がありました。
ちょっと暗いし重たい、ましてや、めでたい雰囲気とは掛け離れる詩だった。
華燭の典の餞(はなむけ)にふさわしいだろうか、散々迷った末、これを贈るの止そうと決めたんです…。

ところが、今回の代読の練習を重ねるうちに、あの詩が再び浮かんできたんですね。
浮かんだまま頭から離れなくなってしまった。そして、やっぱり書き置こうと思いました。



 
↓ 結婚式の朝の 富士山。式場に向かう途中で Jing shangさん撮影
父親が娘を送りだすとき、一遍の詩_e0108126_11325095.jpg




及川均(1913~1996)という人の詩です。
「家庭の詩」を編集した詩人の石垣りんが、その詩につけた簡潔なメモ書きがあります。

『この詩が書かれた昭和のはじめごろは、日本全体をおおう不景気に加えて
東北地方は冷害による飢饉もあって、
娘が身売りする話しも珍しくありませんでした。
花嫁が、いちばん値段の安い木綿の着物一枚新調できないで迎えの者に連れられ、
あるいはひとり山を越えて行くことは少なくなかったはずです。』


↑ こんな時代に書かれたんですね。


『親が持たせてやるものが財産や衣装ばかりでなく、
何も持たせてやれない親の悲しみも、また財産ではないかと私は考えます。』

編者は、こう記しています。


愛娘への切ない思いは、どこの国の父親でも同じなんですね。
今回の代読を終えて、改めてこの詩を読み返したとき、その思いを強くしました。




提灯さげてゆく花嫁 / 及川 均

着飾らしてやりたかった
せめて木綿なと着飾らしてやりたかった
ほんにせめて木綿なと着飾らしてやりたかった
あいつは暗がりに起きてめしをたいた
あいつはめし前に一駄の草を刈った
あいつはしゃんしゃんと畠に肥料(こえ)をかついだ
あいつはしゃれも唄もこかずに田の草をとった
あいつは祭にも行かねば櫛買ってけろともいわなかった
肴もふんだんに買いたかったさ
酒もあびるように飲みたかったさ
客もどんどん呼びたかったさ
おれの娘の嫁いりだみんなみろみろとはやして歩きたかったさ
らんぷの下で
筵じきの板間で
吹きさらしの小舎のような家で
おふるの着物の厚い衿で
ひびだらけの赤い手で
白粉気(おしろいけ)などひとつない顔で
あいつは行ってくるともさよならともいわなかった
だまってぼろぼろ泣いて何遍もお辞儀するだけでいわなかった
花嫁をみろ
白粉気ない花嫁をみろ
笑わないひびだらけのおれの娘の花嫁をみろ
暗い夜だが山がみえる
あいつのさげてゆく提灯がみえる
あいつの行くとおり赤く提灯がいつまでもみえる

~ 家庭の詩 石垣りん:編 筑摩書房




結婚式の記事の回転動画を展開しました。
父親が娘を送りだすとき、一遍の詩_e0108126_15234992.jpg

by hanako_mama | 2015-02-10 11:50 | 私の好きなもの


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